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ネコタク世界へ・ソンユン古都へ

さてさて、ちまたを賑わせているネコタクくんこと金子拓郎選手の、ディナモ・ザグレブ(クロアチア)への移籍ですが、ようやく7月25日に公式発表がありました。契約期間は2023年7月24日から2024年7月21日までの期限付き移籍とのこと。ディナモ・ザグレブでの背番号は、札幌に加入した初年度のものと同じ30番です。
長らく放置しているこのサイトですが、クラブの生え抜き選手が直接欧州リーグに移籍する初めてのパターン(生え抜き選手としてでなければ2020年に鈴木武蔵選手が当時ベルギー1部のベールスホットに移籍の実績あり、檀崎竜孔選手はオーストラリアからスコットランドなので若干ニュアンスが異なる)でもありますし、日本大学からの加入内定発表時に、なんとなくつけた「ネコタク」の愛称が、ほぼ公式レベルにまで広まってしまった責任(?)もあるので、この件について久しぶりに記事を書いてみようかと思います。

今回の移籍に関しては、いくつかの道内メディアで記事が出たあとに、クロアチア専門のサッカーライターである長束恭行さん(@nagatsuka_hrv)も、早くから現地情報をキャッチして発信してくれております。それによりますと、今回の移籍に発生したレンタル料は40万ユーロ、買い取りする場合の移籍金は130万ユーロというものだそうです。現在のレートだと、レンタル料約6,200万円、完全移籍の場合は約2億円という感じでしょうかね。

で、まず気になるのは期限付き移籍であること。オレ自身としては、「中途半端にレンタルするくらいなら、最初から売ってしまえ」派ですし、コンサドーレも山瀬功治(2002年に浦和に移籍)選手以来、武者修行的な意味合いの強い移籍を除いては、ほぼ一貫してその方針でした(違ったのは大伍さんくらいですかね)。そんなクラブが方針転換した理由は、おそらく鈴木武蔵選手の件があったのかもしれません。

武蔵くんが2020年夏にベルギーリーグのベールスホットVAに移籍した際は完全移籍で、その際札幌が得た移籍金は150万ユーロ、当時のレートで1億9千万円ほどと言われています。この金額が妥当かどうかは意見が分かれるところかと思いますが、これが正しいとすれば、彼を獲得するときに長崎に払った移籍金を差し引きすれば大して残らない程度の金額でしょう。そのためか、当時の野々村社長(現・Jリーグ腹黒チェアマン)は、「ベールスホットから別のクラブに移籍する際は、その移籍金の一部を札幌もゲットできる」という条項を入れたそうです。もし武蔵くんがベルギーで活躍して、ビッグクラブに高額な移籍金で移籍してくれれば、札幌にさらにお金が入ってくるというからくりですが、逆に言えば、そのくらいの契約をしないといけないくらい、高い移籍金を取るのは難しかったということでもあるでしょう。

欧州ではよく高額な移籍金が話題になることが多く、先日も、サフランライスとかいう名前の選手が190億だかで移籍、なんてニュースがありましたけど、そういう景気のいい話ってのは、基本的に「5大リーグ」と呼ばれるような強豪国のリーグの、中でも特にお金持ちな上位のクラブに限った話です。こういったキラキラ系のクラブは、その気になればW杯上位常連国のスター選手や、あるいは将来有望な若手選手を獲得できますから、FIFAランクでも自分たちの国より下位の、言葉の壁もあって、欧州での実績がなく、リーグによっては外国人枠を消費するJリーグ所属の日本人選手をわざわざ獲る理由がありません。

逆に、5大リーグでも下位のクラブや、あるいは「欧州その他リーグ」のクラブは、キラキラクラブと競合することが少ない日本人選手に目を向ける理由が出てきますが、そういった陰キャクラブは、残念ながらキラキラクラブほどの予算のないところが大半で、Jリーグのクラブより少ない予算しかないクラブも珍しくないですから、国内で移籍するよりも低い金額しか提示してこない(できない)場合がけっこうあります。実際、武蔵くんの移籍金も、ベールスホットにとっては「クラブ史上一番高い」金額だったとか。

で、オファーを受けたクラブ側も、陰キャクラブから提示されたオファーに対して、「そんなはした金でうちの大事な選手をどうこうしようというわけ!?」などと言いたいのが本音なのでしょうが、未だにマスコミが好んで「海外”挑戦”」という言葉を使いたがることからも、まだまだ「海外(欧州)リーグは日本より上」という認識は根強いままです。選手個人の側からしても、W杯などで活躍して欧州のキラキラクラブにアピールしようにも、今の監督じゃ欧州に行かないと代表に選ばれないというジレンマがありますし、「Jリーグから直接キラキラクラブへの移籍は無理でも、陰キャクラブを経由したステップアップは可能」という実例もあるので、どこでもいいから…というのは語弊がありますが、「条件は二の次、とにかくまずは海外へ」という考えになるのは、無理もないことですよね。そうなるとクラブ側も選手の意思を尊重するしかなく、かくして、全員の思惑が割と後ろ向きな感じで一致してしまった結果、「日本人の海外移籍でそんな高い移籍金が生まれない」という状態になっている…と推測します。

んでもって、問題はそうやって海外に渡った後の話。

完全移籍をした瞬間に、もうその選手は元のチームとは基本的に「関係のない選手」となります。「移籍先で活躍して他のクラブに移籍すれば、その一部がゲットできる」なんて話を聞いた、お金に意地汚いことで知られる我々老害サポーターの、「ベルギーで活躍してブンデスリーガとかに10億くらいで売れろ」という文字通り現金な願いもむなしく、加入当初こそそれなりに活躍していた鈴木武蔵選手は、監督や相方FWが引き抜かれたことなどもあって次第にゴールから遠ざかり、翌シーズンに挙げたゴールは1つのみ。クラブ自体も2部降格となってしまいます。

で、さらに困ったことに、ベールスホットと鈴木武蔵選手の間の契約は、「チームが2部降格した場合は、違約金なしで契約解除できる」という条項があったらしいのですね。サッカーの世界で「移籍金」と呼ばれるものは、「期間満了前に契約解除する場合に、解除を求める側(この場合選手並びに移籍先クラブ)が支払う違約金」のことですから、それがなくなった時点で、札幌が得られたはずのおこぼれも自動的になくなることになります。

その場合でも、彼が「札幌に戻ってくる」ということになれば、札幌は「2億で売った選手をタダで取り返した」という、壺算も真っ青のスーパー錬金術となって万々歳だったのですが、ご存じの通り当該選手はガンバ大阪へ加入。最終的な事実だけを見ると、「貴重な点取り屋を欧州リーグに送り出したはずが、気づいたら本人は大阪にいたでござる」という結果となったわけです。

この例の他にも、「欧州に挑戦すると言って出ていった選手が、いつの間にか神戸にいた」「ケガで長期離脱をしていた選手が、別人かと思うほどマッチョになっていた」など、類似のケースは多く、もちろんどれも適正な例なので誰が悪いわけでもないのですが、最初から国内クラブに売るのであればもっと高い移籍金を取れたのに、海外”挑戦”の美辞麗句のもとに、大事な選手を送り出した元のクラブのサポーターとしては、モヤっとしてしまうのもまた正直なところでして。

ちょっと話がわき道に逸れてしまいましたが、そういう「他クラブへの逆輸入」を防ぐもくろみもあって、ネコタクくんの場合は「とりあえず1年間のレンタル」というところに落ち着いたのではないかと思います。1年間やってみて、他のクラブにもっと高い移籍金で移籍できるようであればその分きっちりお金を取るし、ダメならもうローン延長して1年クロアチアでやってみるか、あるいは札幌に帰ってきてまた活躍してもらう、というもくろみですね。もちろん札幌との契約が残っている、あるいは延長してもらうことが前提ですが。

ちなみに、ネコタクくんには日本でおなじみベルギー1部や、イングランド2部のクラブからも打診があったそうですが、先述した長束さんによれば、その中からディナモ・ザグレブを選んだ理由は、チャンピオンズリーグへの出場が大きかったようです。ディナモ・ザグレブは予選からの参加となりますが、予選を勝ち抜いて本戦への出場権を獲得できれば、キラキラクラブとの対戦が待っています。そこで強い印象を残すことができれば、さらなるステップアップもできるでしょう。

ここからがスタートではありますが、大学時代には東京都リーグや関東2部でプレイしていた選手が、たゆまぬ努力でプロ入りを勝ち取り、そこで誰もが認める活躍をしてヨーロッパに羽ばたいていくわけですから、我々としてはこの先さらに羽ばたいて、「世界のネコタク」として活躍してほしいものですので、とにかくまずは存分にやってもらいたいですね。

それと、ついでのような形になって申し訳ないのですが、GKク・ソンユンの京都サンガFCへの期限付き移籍も発表されています。兵役のため2020年に退団し、今シーズンから札幌に復帰しましたが、ブランクのためか判断ミスが目立つなど、以前のパフォーマンスを取り戻せないまま、スゲさんの控えに甘んじておりました。

除隊後、他クラブからのオファーもあった中、札幌でタイトルを取るためにと帰ってきたのに、現状その力になれていない自分のふがいなさに腹を立てているのだろうというのは自分もなんとなく感じていていて、ソンユンが札幌を気に入ってくれているのはありがたいことですが、一方で札幌を背負いすぎてるのではないかという懸念もあったので、一つ環境を変えてみるのも良いのかもしれません。

本人もそう判断しての期限付き移籍なんだと思います。試合勘と自信とトップフォームを取り戻して帰ってきてくれれば一番いいですけど、そこから先はソンユン次第ですね。そりゃもちろん帰ってきてほしいですけど。

そんなわけで、過去の写真を眺めてみたら、熊本キャンプで撮影した、ネコタクくんとソンユンがイチャイチャしてる写真がありましたので、餞別代わりにそれを添えて、2人の活躍を祈りたいと思います。