コンサドーレとSDGs

まえがき

この記事は、北海道コンサドーレ札幌 Advent Calendar 2023向けに書き下ろしたものです。 今年も恒例の19日で参加いたしました。相変わらず何一つ人生の役には立たないとは思いますが、オフシーズンの暇つぶしにでもしていただければ幸いです。また、他の皆様の記事もそれぞれの視点からの興味深いものばかりですので、目を通してみてくださいね。

SDGsとは

近年、「SDGs」ってよく耳にしますよね。猫も杓子もSDGsとばかりに、一般企業はもちろんのこと、最近ではサッカークラブまでがSDGsを掲げています。我らが北海道コンサドーレ札幌も例外ではなく、「PASS」という名前のプロジェクトでSDGsの取り組みをアピールしていますね。

ところで、「SDGs」というのは、いったい何のことなのでしょう。コンサドーレなら「菅(Suga)大輝(Daiki)のゴイスー(Goisu)なシュート(shoot)」でしょうか。sが小文字なので、ひょっとしたら枠には行ってないかもしれません。

しかしながら、世間一般でいうSDGsとは、どうやら菅ちゃんのことでも、はたまた杉浦大輔コーチのことでもないみたいです。インターネットで調べてみたところ、「Sustainable Development Goals」の略らしく、日本SDGs協会のサイトによれば、「『誰一人取り残さない』という理念のもと、『世界の貧困をなくす』『持続可能な世界を実現する』ことを目指した、2030年を達成期限とする17のゴール、169のターゲット、および、その進展を評価するための指針を持つ包括的な目標」とのことです。割と多岐にわたった内容でした。コオロギ食べたりするだけじゃなかったんですね(偏見)。

中には「貧困の解消」や「飢餓をゼロに」など、そんなことを言われてましてもな壮大な目標も含まれていますが、別にみんながすべてのゴールを目指せというのではなく、この中からそれそれができることをできる範囲でやっていきましょうね、ということのようです。共通するキーワードは「サスティナブル」、つまり「持続可能」というところでしょうか。

プロサッカークラブにおけるSDGs

では、サッカークラブにおける「持続可能」とは何でしょうか。といっても、サポーターの皆様にとっては、世界よりもまず自分とこのクラブの持続を心配しやがれと言いたいですよね? 実際、コンサドーレにはこれまで存続の危機…それも致命傷レベルにヤバかったことが何度かありましたし。そういう観点でも、やはり「クラブの持続」というのは切実たる問題なのであります。そんなわけで、大きな親会社を持たない、ただのいち地方クラブであるコンサドーレが、サスティナブルでファッショナブルでシャアアズナブルなクラブとするためにはどうするべきか。それを考えていきたいと思います。

根幹となるのは、「アカデミーから選手を育成する」ことでしょう。継続的にトップチームで活躍できる選手を輩出していくために、あるいは地域にサッカーの文化を根付かせるために、アカデミーの強化を地道にやっていくことが大事だと思います。とはいえ、それは長期的なスパンでの話であって、すぐに結果の出るものではありません。短期的なことを考えれば、やはり「お金を稼いで、それを元手に設備などを充実させたり、あるいは新たな選手を発掘したり、有望な新人選手を迎え入れて戦力とし、さらにお金を稼いでいく」、そんなサイクルを繰り返しながら、クラブの価値を高めていくのがミッションとなるのではないかと思います。

ここで重要なのは、「クラブの価値も高めていく」ということです。クラブの価値が高くならなければ有望な選手は入ってきませんし、メディアへの露出も増えないですし、スポンサーもつかないですし、観客動員にも影響しますからね。むろん、成績も含まれます。好成績を収めれば、賞金なんかも入ってきますからね。今のところその機会は少ないですけどね。ええ。

つまり、「お金を得た方法」と「そのお金を使って得たものの効果」、これらの評価が、SDGsの指標となりえるのではないでしょうか。もっとも、「得たものの効果」といっても、因果関係の証明が難しい以上定量的な評価はできないと思いますので、そこはあくまでもなんとなくの雰囲気で。どうせ本家SDGsだって、ろくな検証もせずになんとなくで白人のいいような感じで終わるでしょうし(暴言)。

というわけで、過去のそれっぽい出来事で、ひょっとしたらSDGsだった気がするかもしれない事例をピックアップして、よせばいいのに当てはめてみることにしました。

念のためお断りをしておきますと、挙げた事例での移籍金の金額や使途などは、あくまで当時の報道等で知る限りの範囲内で記述しています。実際にどうだったのかは不明ですので、そのあたりご注意ください。

ケース1:人が人になった事例(エメルソン・2000年)

これは人を売った事例(語弊)ではないのですが、他に適当なのがなかったので。

2000年にJ2得点王となり、J2優勝とJ1昇格に導いたエメルソン。来るべきJ1の舞台でも彼の力が必要になるのは明らかだったため、まずクラブとしてはサンパウロFCからのレンタルだった彼を完全移籍させることが必要でした。

とはいえ、約2億円とも言われた完全移籍費用なんて用意できるはずもないクラブは、サポーターに増資を募る形で金をお無心。はっきり言えば「J1残留」を人質に取られたサポーターは、ある者は貯金を切り崩し、あるものはボーナスをつぎ込み、ある者は女房を質に入れるなどして必死に資金を調達。目標額を大きく上回る3億円もの資金を集めます。

しかしながら、その交渉は当のエメルソンの「年俸も1億欲しい」という一言で破談。川崎フロンターレに完全移籍していきました。宙に浮いた形となった資金は、守護神佐藤洋平をはじめとして主力のほとんどを占めていたレンタル選手の完全移籍費用となり、翌年のJ1残留という結果につながったので、結果としてはまずまず…と言いたいところですが、その翌年はあっさりJ2に降格し、また強化費の不足を資本金の増額で埋めるやり方は債務超過という足かせとなって、その結果経営危機につながったため、SDGs度としては低いように思います。

ケース2:お金が資産となった事例(今野泰幸・2003年)

「1年でのJ1復帰」を名古屋グランパスエイト(当時)を優勝に導いたジョアン・カルロス監督の元、元ブラジル代表2人、元J1得点王という史上最強の助っ人を揃えたにも関わらず、シーズン早々に全員いなくなった大笑いのシーズン、昇格争いにすら絡めず大赤字だけが残ったみったくないチームの(現金化の)目玉が、U-20代表の主将も務めていた今野泰幸でした。
当時はまだ移籍金制度があった時代(2009年オフに撤廃)で、2003年オフにFC東京へ移籍した際の移籍金は2億円以上とも言われております。

J1復帰のために大ばくちに出て、見事に散っていったクラブは翌年、育成型クラブへの転換を掲げた「五段階計画」という名の、事実上のリセットボタンを押します。足もとを見直して身の丈に合ったクラブを目指した結果、翌年、J2最下位というあまりにも身の丈すぎる現実を見せられ、持続するだけで精一杯という状態ではありましたが、彼の移籍金は若手選手のための寮を整備するための資金に使われ、そこで育った多くの選手たちが花開いていったので、ドンベを差し引いてもSDGs度としては高いかと思います。

ケース3:人が結果になった事例(鈴木武蔵・2019年)

エースストライカーとしてJ1昇格と悲願のJ1残留を支えてきた都倉賢が、2019年のオフにセレッソ大阪へまさかの電撃移籍したことを受けて、V・ファーレン長崎から獲得したのが鈴木武藏。この年キャリアハイとなる13ゴールを挙げ、都倉の穴を埋めるにあまりある活躍をしていますが、一番は何よりもルヴァンカップ準決勝で挙げた決勝ゴールでしょう。このゴールによって札幌はクラブ史上初の決勝進出を果たしています。決勝では川崎フロンターレとの死闘の末にPK戦で敗れるものの、準優勝の賞金5千万円をゲットしています。これはもちろん彼だけの力ではありませんが、原動力となったのは事実でしょう。

「もう一度この舞台へ帰ってきて、優勝しよう」というサポーターの決意は、あれから4年経ってもまだ一度もかなえられてはいませんが、「俺たちでもやれるんだ」というマインドは、得られた結果としては割と大きいのではないかと思います。

ちなみに、鈴木武藏は2020年にはベルギーリーグのベールスホットへ完全移籍、この時の移籍金は一説には150万ユーロ、当時のレートで2億円弱と言われています。都倉の移籍は契約満了でのもので、移籍金は発生していないため、厳密に言えば「移籍金を元手とした投資」の事例ではないのですが、SDGs度としては高いと思いますので、事例として紹介しました。

まとめ

ご覧の通り、こうして過去の例を見てみると、我ながら「だから何なんだ」としか思えない、何の気づきも得られもない内容で、心底無駄な時間を過ごした気もしますが、まぁこういったことを繰り返しながら、それでもこうして今もクラブが残り続け、なんとかかんとかJ1にも残り続けられるくらいのクラブになったわけです。

今もちょっと活躍したとたんに金満チームから目をつけられては、育った端からかじり取られる毎年ではありますし、持続可能というよりは割と取り返しのつかないサッカーを標榜するクラブではあるものの、北海道のローカル深夜番組でヘリに乗って吐いてた青年が、後に国民的スターになって紅白歌合戦の司会をやるようになるなんて当時は誰も思わなかったように、コンサドーレだって将来さらに強豪クラブになっている可能性だってあるはずです。

昔であれば歯牙にもかけてもらえなかったような大都市圏の強豪大学や、下位カテゴリの有力選手にも候補として選んでもらったり、支えてくださるパートナー企業様も増えましたから、やはり何としてでもJ1に残り続けなければいけないと決意を新たにする次第です。